樋泉克夫教授コラム

【知道中国 860回】                    一三・二・仲一

 ―――嗚呼、文革精神は永遠に不滅です・・・ヤレヤレ

 『総結加強党的領導的経験』(人民出版社 1971年)    

 わが自衛隊艦船への攻撃用レーダー照射問題に対し、中国側は得意中の得意ワザである屁理屈を持ち出した。日本側による「無中生有(デッチあげ)」とは、いくらなんでもムチャクチャだろう。だが、そんなことは承知のうえ。自分のデッチあげなどは一向に気にしない。さもそれらしく日本側の「非」を捏造し論い、休む間もなくガナリ立てることで敵を脅し沈黙させ、やがて籠絡し、中国の側に「理」があると思い込ませてしまう。

 中国では昔から槍桿子と筆桿子の2つの兵器があった。今風に表現するなら後者はソフト・パワーということになる。つまりペン、写真、映像などのメディアだ。歴史的を振り返ると、敵を攻撃する場合は槍桿子、つまり軍事兵器よりは筆桿子の方が威力を発揮したように思える。近現代中国において筆桿子の威力を知り尽くしていたがゆえに最も効率的に駆使したのが、じつは「政権は鉄砲から生まれる」との名言を吐いた毛沢東だった。

 その毛沢東の“最も忠実な弟子“たちが、セッセセッセと書き紡ぎだした屁理屈の極みとも言える文革理論の数々だが、この本は毛沢東の権威を最高潮に持ち上げようとしていた当時、「人民日報」「紅旗」「解放軍報」などの理論紙誌の社説や、北京、雲南省、山東省、遼寧省、江蘇省、河南省などの共産党委員会が発表した論文を集めたものである。

 文革理論とはいうものの、現時点で読み返せば噴飯モノのお笑い種。なかでも江蘇省党委員会名で発表された「党の優良な作風を発揚しよう」はおススメの爆笑モノだ。

 「党の作風問題は重大な原則問題であり、路線と密接な関係を持つ。路線には路線の作風があり、とどのつまり作風は定められた路線に服務するものである。党の優良な作風に注意することによって、はじめて毛主席のプロレタリア階級革命路線を貫徹することが保証できるのである。これに対しマルクス主義に反対する一切の悪い作風は、凡て毛主席の革命路線貫徹にとって極めて重大な障害となるのだ。だが、この認識が不足している同志にあっては、往々にして作風を小事と思い込み、作風が悪かろうが路線との関係は大きくはないと看做しているが、これは完全な誤りである」

 これだけでは何を言いたいのか隔靴掻痒で莫明其妙(チンプンカンプン)だが、我慢しつつ次に読み進めば、彼らの意図が浮かんでこようというものだ。

 「人びとの作風というものは、定まった世界観によって決定される。プロレタリア階級の世界観はプロレタリア階級の作風を生み、ブルジョワ階級の世界観は必然的にブルジョワ階級の作風を表すことになる。我われはブルジョワ階級の世界観を大いに打ち破ることで、唯心精神をサッパリと洗い流し、弁証法的唯物主義と史的唯物主義によって構成されたプロレタリア階級の世界観を樹立してこそ、我われの作風を徹底的に改め、党と人民の求めに応ずることができるのである」

 かくて最後は、「偉大なる社会主義の祖国は日々に発展している。偉大なる毛主席を頭とする中国共産党の導きがあり、偉大なる中国人民解放軍をプロレタリア独裁の強い支えとし、偉大なる中国人民の英雄的戦いがあってこそ、我われは必ずや前進勝利し、未来への道を妨げる一切の障害物を取り除き、社会主義革命と社会主義建設においてさらに大きな勝利を奪取することができるのだ!」と結ばれている。

 かく屁理屈を並べ立てるが、自己チュー極まりない世界観こそが超自己チューな作風を生み出すことになる。やはり問題は彼らの超尊大な世界観であるといっておきたい。《QED》


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