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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 868回】 一三・二・念八
――「潜在的大国」への飽くなき欲望には際限がない・・・らしい
『中国崛起之路』(胡鞍鋼 北京大学出版社 2007年) 「21世紀に入り、我われは戦略構想の時代を迎えた」。「大戦略とは歴史の総括であり、未来の選択である。大国、あるいは潜在的大国の未来という視点に立つなら、戦略構想こそがカギである」。「国家戦略構想の理論的基礎、歴史的経緯、グローバルな視点を定めたうえに、戦略目標策定、戦略段階選択、目標達成優先順位順を体系的に準備する」という大戦略構想こそが、「大国の貧富、盛衰、存亡と結びついている」――と、なんとも昂揚した調子で書き出される。流石に「大戦略叢書」の一巻だけのことはある。
「中国経済学界の思想的支柱であり、最も優れた業績の持ち主であり、中国政府の公共政策に最も重要な影響力を発揮している」(「著者簡介」)とされる著者の主張を簡単に纏めてみると、
■「潜在的大国」である中国は地球上でそれ相応の地位を得るべきであり、自らの「貧富、盛衰、存亡」を賭けた振舞いをしても当然ではないか。それは近い将来の大国への道を突き進む中国が享受すべき当然の権利であり、その権利を断固として行使するために「大戦略構想」はある。
■社会主義の多国籍企業であり、グローバル企業である国有企業が資本主義の多国籍企業と最も異なる点は、国有企業の文化に現れている。中国の企業文化は中国の伝統文化に淵源を持ち、同時に西洋文化からも学んでいる。だが、それは西洋文化とは異なる。西洋文化は個人主義を強調するが、我が国の国有企業文化は調和・集団主義・奉仕精神をより強調する。我が国の国有企業は物質的な富だけだはなく、精神的な富をも創造するがゆえに企業として極めて優れたものである。
■国家には「国家生命周期」というものが備わっている。かつての中国は自己変革が出来ず、自己変革の動きを抑圧したために、他の文化や勢力との衝突や競争の過程において衰退の道を歩まざるを得なかった。これこそ、伝統中国が急速に衰退の道を進んだ根本原因だ。自己変革を積極的に推し進め、絶え間なき創新こそが国家の崛起を速め、加速度的に強大化させる。ここに現代中国の迅速なる崛起の根本要因がある。
■結論的に言うなら、21世紀、中華民族は数多ある世界の民族の中で抜きん出た存在となると同時に、中国が世界強国へ向かう世紀でもある。中国現代化の道は、すでに歴代の中国指導者が絶え間なく追求してきた道であり、全面的創新の道である。それはまた10数億の人民が挙って学んだものであり、その豊な成果を享受する道であり、「行いながら学び、学びながら行ってきた道」である。中国現代化の道こそが中国崛起の道であり、中国を全面的に改め、世界に影響を与える道でもある。
――とまあ、身勝手でノー天気極極まりない大風呂敷を広げて見せるが、著者は①執政党の統治能力を高め改善し、②確固とした国家の不正・腐敗取締り体制を築くという「政治的基礎」を築くことが中国崛起への必要絶対条件だと主張する。①は一党独裁による効率的統治の一層の深化を、②は幹部による不正・腐敗体質の完全克服を意味するのだろうが、①はともあれ、「公財私用」を当然視する幹部が構成する共産党に②は不可能だ。
やはり著者が先ず取り組むべきは民族気質の根本的改造への道であり、幹部の持つ伝統的不正・腐敗資質の全面的創新の道のはずだ。それがダメなら、大戦略構想だの、中国崛起だの、潜在的大国だの、世界強国だの、国家生命周期だの・・・大法螺を吹くなッ。《QED》
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