_塚本三郎元民社党委員長小論集_

円高は日本経済の実力    平成二十四年七月下旬    塚本三郎


円高日本の今日

 国内に仕事が少なく、物価は下落して、失業者は増大しているときには、世に不景気と呼んでいる。それをデフレ経済とも言われている。
 戦後の世界経済は、勝者である米国の通貨ドルを、国際通貨として動いていた。
 日本は敗戦から立ち直って、世界に伍して出発した時は、一ドル三六〇円が交換レートであった。
 その後、日本経済の成長に伴って、一ドルが二五〇円台となり、更に一二〇円の時が長く続いたようだ。勿論それには、日本の経済成長以上に、米国経済の停滞による、ドルの増発が、ドル安に拍車を掛けたとみる。
 そして四年前の米国中心のリーマン・ショックに伴って、一一四円の一ドルは一挙に七〇円台にまで円高となった。その裏では、中国の元安も響いているとみる。
 ともあれ、日本のみが断トツの円高である。欧州のEUも同様の不況である。
 円高は、日本経済が強力であり、信用性が高いからこそ、世界中のお金持ちが、日本の通貨である「円」を求めている、それゆえの円高である。
 常識としてみれば、こんな幸運はない。人口に比例して資源不足の日本は、エネルギーをはじめ、各種資源や、食糧を買わねば、生活出来ない日本の実情からすれば、世界中の物資が、安価で入手出来るではないか。
 日本人の誠心と努力が実った結果と悦ぶべき一面であろう。
 既に各商社や大企業は、円高を利用して、世界中から、円高のメリットを活用しつつあると見る。
 例えば、世界中で、有望な会社の株式を買い入れること。資源産出の鉱山を買い付け所有すること。また値上がりを予想して、金治金や、エネルギー資源等、日本自体が必要とし、かつ不足している物資を、有利に買い付けている。
 これは、商社だけではなく、大企業も自社で使用する材料については買い付けを進めており、それ等が、日本の貿易に大きく貢献している。
 だが円高によるメリットよりも、デメリットのほうが遥かに大きい。
 日本経済は、物造り大国として、輸出貿易を中心に生きて来た結果の経済大国である。従って円高のメリットよりも、数倍のマイナスを受けているのが、日本経済である。
 伝える処によれば、トヨタ自動車は、一ドル一円の円高で約五十億円のマイナスと云う。
 だとすれば一ドル百円に戻れば一千億円のプラスになると計算する。
 このように計算してみれば、日本経済全体では、円高のメリットよりもデメリットの方が遥かに大きく、その差は数倍ではなかろうか。
 ならば、日本経済全体の立場から、円高を是正することが政治の緊急の目標とすべきである。
 世界各国が通貨安で苦しんでいるとき、日本が独り勝ちの如く、異常な円高で時を過ごすことは良くない。日本自身も、円高に対するマイナスを是正すべきだ。
 最初に述べたように、デフレ経済から一刻も早く脱却すべきである。幸いにも、円高の通貨価値を円安に導くことが出来れば、不況克服には一石二鳥と云うべきである。

不況克服のキメテは公共事業

 民間の経済需要が少ないときには、政府が、幾多の公共事業を発注し、需要を創出して、景気を回復すべきである。
 例えば、東京・大阪間の、リニアモーターの設置、日本海側の、鉄道新幹線の整備、原子力発電への地震対策、大都会での共同溝の埋設。それにも増して東日本大震災への理想的復興と近代化。更に防衛力強化の為の「空母新造船。イージス艦の増設」等々。
 今日ほど、日本政府が為すべき、公共事業が大手を拡げて待ち伏せている時はない。
 自民党政権以来、景気回復を先延ばしして来た、公共事業削除のツケを、思い切って大量発注を行なうことによって、民主党政権の汚名をそそぐ時だと提唱する。
 問題は、その為の財源をどうするかに民主党政権は迷っている。
 円高こそ一石二鳥の好機と論じたのは、一ドル八十円の現在の通貨を、四年前のリーマン・ショック当事の百十円台まで、円安に戻すことである。
 それには、「赤字国債」約百兆円を発行することこそ、キメテとなる。その国債は「政府紙幣」と称して、そのまま国民に売らず、政府が抱えたままにしておくこと。
 政府が決定して、日本銀行に命じて。前述の規模の事業を発注する為の資金とせよ。
 その資金で景気を回復する、その資金は結果として円高をも是正出来る。
 大雑把の計算を述べれば、東日本大震災復興の為、各県に約五兆円~十兆円と、三県で約十五兆円から三十兆円の予算を計上して、各県毎に理想的、モデルになる新建設地域を実現させる。
 防衛費整備には、二十五万人の自衛隊員の人件費を含め、陸・海・空の新鋭整備費を合算しても、毎年五兆円を切って今日に至った。それでも、日本はアジア各国で、最も信頼される、自由世界の砦である。それにしては、余りにも貧弱な防衛を直ちに整備強化することが必要である。既に決定した予算に加えて、対中国等への防衛力を整備強化する。

 中国の異常な領土的野心が、露骨であり、外交の脅威もまた目立って来た。
 米国の海上警備について、アジアに重点を向けると米国政府は方針を転換している。 
 日本が米国と協力すると共に、更に自力で防衛力を整備強化する為、予算の倍額を用意する必要がある。 防衛力は暴力ではなく、日本の今日は、暴力を防止するキメテである。
 日本の同盟国である米国が、それ程の誠意を示すのに応えることは、日本自身の平和維持だけではなく、自由世界から、従来以上に信頼を得る姿勢となるであろう。
 この際、右に述べた如く、海上の警備力強化に、日本の実力を示すことが求められる。

円高こそ「政府紙幣」の出番

 日本は狭い国土ながら、南北に細長く列島として、太平洋の西側に位置しており、両側に豊富な海洋の資源を控え保持している。
 この海洋資源開発こそ、天の恵みを活用出来る、科学と技術利用の時代が来た。
 更に日本列島の八五%は山岳地帯で、長年利用を控えて今日に至っている。幸い、通信と交通の科学技術は、日本の国土を、それなりに十二分に活用出来る時代が到来した。
 かつて田中角栄元総理は、新潟を中心としてではあったが、「日本列島改造」を世に問うて、彼なりに、国土の発展と開発に、第一歩を印した。
 公共事業の開発によって、前述の如く、民需の足らない処、否、余っている「国家の生産能力」を、十二分に活用せしめる。
 そのための資金として「政府紙幣」と呼ぶ、税金や外貨の裏付け無き、通貨を大量発行して、日本人の持てる「資質と能力」を最大限に展開せしめることを提言する。
 その為には「約百兆円の通貨」の増発を主張する。全く大雑把な数字ではあるが。
 約半年前、日本銀行は十兆円の紙幣増発によって、四円の円安となった。 
 ならば、百兆円の「政府紙幣」を、右の如き事業実施の為に発行すれば、四〇円の円安、つまり一ドル八〇円が一二〇円の円安となりはしないか。
 勿論、通貨とは、国際の動向に左右させられて、単純に上下する訳ではない。各種の要素が加わる。投資や投機マネーが世界的に駆け回るから単純の計算とはならない。
 特に円安を第一と目指しての「政府紙幣」を論じているのではない。
 日本が当面する第一目標は、先ず「デフレ解消」である。そして不況克服、景気回復、そして円高による、企業の海外逃避を喰い止め、失業者増大の阻止が眼目である。
 従って円安が一ドル一二〇円を超えるとみた時には、紙幣の増発をストップさせればよい。それは、インフレ・ターゲットを、実行に移す方策として論じた。
 税収入や、外貨収入等、裏付け無きカラの通貨を発行することは、「通貨発行の日銀」の当局者としては、インフレを招き、物価高を招来するから、極めて慎重である。
 とりわけ、かつての日本国家は、人口増大と反比例して、食糧をはじめ、資源の不足に悩んだ、過酷な歴史の繰り返しであったから。
 それゆえ日銀当局者は、インフレ対策には、種々の経験と、対策の手段は心得ている。だが「デフレ対策」には殆んど熱意が少ない。しかしながら今日では、世界的大不況が数年も継続すると憂慮されている、例外中の例外の事態であると受け止めるべきだ。

第二の明治維新

 独立国家には通貨を発行して、国内を治める責任と権利がある。勿論、経済活動がその基軸とされている。その通貨の価値は、その国家及び国民の持てる資産、及び国家の税収によって、強弱が比較される。円高はその点では、対外的に比べて、最高の価値在る通貨と評価されていること前述の如きである。
 従って、不況克服の為に、政府が公共事業を発注することによって、需要を創出する為に、「政府紙幣」を発行することは、インフレに悩まされ続けた通貨当時者にしてみれば、前例が殆んどない。それゆえ、先の見通しをもって、余程の決断と勇気が必要である。
 しかし、唯一の大きな例がある。遠く明治維新(一八六八年)の実例を見る。
 明治維新の新政府は、大久保利通、岩倉具視、伊藤博文等、新政府には、国家に対する何の裏付けのない国家と新政府であった。そのとき〝由利公正〟なる財政家を中心にして、通貨「太政官札」を発行して、新政府をまかない、日本の通貨として流通せしめた。
 今日は、明治維新前夜と同等の内外情勢である。国家存立の危機とも憂えられている。だからこそ、全国各地で、各業種や地位を問わず同憂の士が、地から湧き出るが如く、各種の仲間を組んで立ち上がりつつある。
 まさに、今日の日本社会が「明治維新」そのものであるとみる。
 従って、衆議院解散を目前に控えて、選挙後の 新国会議員は自覚して、明治維新の「太政官札」と同じ、 平成維新の「政府紙幣」の発行に踏み切るべきことを提言する。
 それこそ円高是正による景気回復、日本経済再生、そして失業克服の一石二鳥である。







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