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_塚本三郎元民社党委員長小論集_ |
_当会支部最高顧問、塚本先生世評_ |
オバマに期待できるか 平成二十一年四月上旬 塚本三郎
オバマノミクスは残念だが失敗すると考えざるを得ない。
なぜ彼の経済政策は失敗するのか。今日、アメリカ経済の没落を招いたのは、アメリカ製造業の凋落であり、製造業の復活なくして、アメリカ経済の復活は成し得ないという、極めて根本的な事実を、オバマが軽視しているからである。
今回の金融危機の原因は、アメリカ製造業の凋落、すなわち競争力の著しい低下である。それなのに、アメリカ人は、逆の道である消費体質を改めようとはしなかった。
これによってアメリカは、消費過剰に陥り、貿易赤字国へと転落した。その行き着くところ、慢性的な貿易赤字によって、ドルはどんどん海外に流出していった。
吉凶はコインの裏表
思えば、戦後アメリカが誇るIT産業発展の土台として、西部のカリフォルニアに、シリコンバレーと呼ぶ近代産業の村を建設し、世界の技術者を集めた。アメリカとて、製造業の大切さを承知していたからこそ、その先端産業を手掛け、見事に成功した。
不幸なことは、IT産業のコメとまで称した「半導体」を取り出し、途上国の一部が、専門的に低コストで大量に生産し、世界に売り出した。それが為にアメリカのみならず、日本の家電各社もまた、半導体の製造から撤退を余儀なくされた。
製造業の大半は、やがて低賃金国の追い上げによって市場を奪われつつある。
一方、近々十年間に、途上国からアメリカ大陸に移住する人達は、貧しい人達の群であった。中南米、中国、ベトナム等々の移民は約四千万人と伝えられる。
職と住居を求めて押し掛ける人達に、政府としては、職と、住居を与えることは、広大な大陸であっても、急激な膨張のゆえに至難の業であった。
おりしも、車産業と、住宅産業の転換点に差し掛かっていた時期であるだけに、好むと好まざるとにかかわらず、車のローンと同様に、住宅の建築ブームを招き、それが為にローンにも、政府が政策に乗り出し、住宅ブームを招くことは当然の成り行きであった。
本来の政策を考えれば、まずは移住者に、住居と並行して、職を与えるべかりしで、「住は職の在る者に」、先ず買い入れを認めるローンを付与すべきであった。
そして途上国から、軽工業の追い討ちにさらされているアメリカにとっては、中国、韓国、メキシコ等の低賃金労働力は、絶好のチャンスだ。
移住者という名の、低賃金労働力の活用こそ、米国にとっては天与の機会であるのに、それを活用しなかった。そこに製造業を軽視した米国の非情の運命があった。
そこで生み出され、取って代わったのが「住宅バブル」である。この住宅建築と販売によるバブルによって、住宅の買い入れのローンを無制限にすすめた。
その結果、債務者の持つローンの赤字は増大した。住宅という担保は、やがて価格は上昇すると宣伝し、その上、国債を合わせて、無責任にも証券化した。
この危いサブプライムローンの証券化と、その上、アメリカが誇る保険会社AIGまでこのローンを担保した。更に格付機関が、サギまがいのトリプルAを付与し、世界に信用させて売り出し、年間2兆ドルもの金をアメリカに還流させた。
民主政治の申し子を自負し、世界一の軍事大国のアメリカが、まさか、この証券を誰も疑わず、非常識にも各国が、この「サギ証券」に飛び付いた。このことで消費体質であるアメリカは、さらに消費過剰に陥った。
ところがオバマは、アメリカのアブク銭にマヒした消費癖を抑え、生産力を伸ばすどころか、これまで過剰な消費の担い手であった個人に代わって、今回は、国家そのものを、過剰な消費の担い手にしようとしているのではないか。これでは国家経済が健全化されるはずがないと思う。一体アメリカは、その資金をどこに求めようとしているのか。
オバマは、イラクに展開している戦闘部隊を、10年8月31日までに撤退させると宣言したが、はっきり言って、これも絵に描いた餅に過ぎないだろう。
テロ対策より景気回復が先
アフガニスタンに対して、兵の増派を明言しているオバマだが、イラクからアフガンに兵を回さざるを得ないという軍事的必然性で、平和主義の実現という訳ではない。
このアフガンでの戦いが、オバマにとっては、やがて、かつての「ベトナム戦争」となる可能性もある。かつては、すぐ隣の、ソ連の強大な陸軍でさえも失敗したではないか。
アフガンにおけるタリバン及びアルカイダとの戦いに勝利するには、イランの協力を得ることが不可欠である。というのは、タリバンがスンニ派であるのに対し、イランはシーア派国家だから、制圧に力を入れてくれると思うからである。
また、イランがシーア派を通じて、広く中東に影響力を持つことも考えられる。
イラク戦争においては、米軍が緒戦では見事な勝利を収めながら、治安維持で手こずり、治安が長期的に不安定であったのは、イランを敵視したことに真因があったとみる。
オバマが、アフガンに於けるタリバン殲滅の成否は、イランのシーア派をいかに懐柔し協力せしめるかにある。
アメリカは、目下「テロとの戦い」に、国費を消費しつくしている。その点、オバマもまた、当面の敵を、取り違えておりはしないか。
本来ならば、それ以上に難問なのは、ドルの信用回復であるはずだ。そのドルの信用回復の為に、製造業、そして米国特有の農業、教育事業に全力を尽くし、そして、今までの悪習である「消費グセ」を改めるべきである。
アメリカのあるべき本来の姿に戻れず、結局は戦争を継続し、消費を増大しつくして、景気を回復せんとしているのではないか。資本主義の行き着く悪の宿命は、強欲主義と倫理なき商人の道である。それを自制し、改革するための試練から逃げてはいけない。
オバマの行き着く処は、悪い憶測であるが、わざわざ戦争を追い、急場をしのぐ方向に向うことを危惧する。アメリカの使命は、一にも二にも、まず経済の建て直しである。
オバマは、百年に一度の大不況を招いた犯人がアメリカであることを自覚すべきだ。
日本の立場では、ドル本位制を守り抜くために、日本が犠牲を惜しまないという政府の声明は、米国と親子関係にあるイギリスを感動させた。
しかし、各国は日本の立場を「ドルと心中しかねない国」と評している。
アメリカは世界経済の中心的役割を自負し、ドルの発行元として、IMFを支配したが、「働くことよりも消費」が美徳として来たことによって、今やドルは紙くず化せんとしている。それを防ぐ米大統領の方法を推測すれば、行き着くところ、残念なことに、
第一は、金とリンクするドルの新札を出すこと(IMF)の出発の昭和二十二年の原点に戻る。(これは世界に流通している旧ドル紙幣を、ある日突然、米国自らが無効を宣言することになる。これは日本が終戦直後に新円を出し、旧円は無効とした、同じ手口である)
第二は、戦争状態を拡大して、勝利すること。何れも、やってはいけないことを、やり始めることである。しかし、アフガンに眼をつけているオバマは、その方法が在り得ることと思うが如何か。――米国の金庫は既に底をついているのに。
国際通貨を守った日本
一体、「これからどうなるか」誰にも「分からない」
お人好しで世界一平和な、否、平和ボケの日本政府が、うろうろしているうちに、民主化されたロシアが、プーチン大統領になって、伝来のナショナリズムを激しく鼓吹して、ロシア帝国の再建を狙うかの勢いであった。
かたや中国も、労働者の低賃金を武器に、世界の加工々場として、共産主義とは似ても似つかない、繁栄の為の人権の弾圧と、独裁の牙を砥いで、世界一のドルを握った。
そのロ・中の両国も、宿敵アメリカの金融政策に悪乗りし、彼の崩壊によって、一朝にして混乱の危機に直面している。天の裁きの鋭さを瞬時に見せ付けられた思いである。
昭和二十二年、アメリカの提唱によって戦後経済体制の根幹をなす、プレトンウッズ(IMF)体制が築かれて、ドルが世界の通貨となった。だがその二十四年後、基軸通貨発行元のおごりで、一九七一年には、兌換券としての信用は捨てられた。(ニクソンショック)
それを救ったのは、日本の田中首相とニクソン大統領によるハワイ会談であった。
つまり、ドルは、金との交換は出来なくなったが、通貨として存続せしめる為、日本が軍用機P3C(ロッキード社)を大量に買い付けて、ドルの国際通貨としての命を生き延びさせた。このことは、ロッキード事件として、日本国内では、裏金のみが問題化した。
しかし、日本の円は当時一ドル三六〇円が、七三年にはスミソニアン合意で一ドル三〇六円に高められ、竹下氏によるプラザ合意では、二五〇円台にさせられ今は百円以下。
これ等すべては、基軸通貨としてのドル本位制を、日本が守ったその経過を辿った。
その間に、アメリカの盟友である欧州各国は、ユーロを造ってドルから逃げ切り、日本以外の国々はドル離れを起し、IMF体制を根底から動揺させつつある。
対外貿易にすべてを委ねて来た日本も、今回のアメリカの危機のあおりで大津波を受けている。今こそ、「日本よ本来の姿に立ち帰れ」という天の摂理ではないか。
即ち、対外に頼る前に、まず日本自身が内を固めよう。
それには二つの道が待っている。その一つは、幸福な生活のためには、貿易中心の物欲や所有欲にとらわれない、「清貧の生活」に戻るべきだ。日本文化の源流はそれだった。
今一つは、世界の中に伍して生きる為の、近代化の前進である。例えば
まず防衛力を強固にすること。その上で国内を整備する為、空港、港湾、鉄道網の完備、研究機関の建設、住宅の整備、福祉施設の完備等々、今こそ眼を内に向けて、真の独立国としての体制を完備することが、外への強固な防壁ともなる。
貿易で稼がなくては、その資金をどうする。「借金漬けの政府」ではないか?その通りだ。だが日本政府の借金は、外国からは一円も借りていない。国民の貯めているお金である。ならば、今こそ政府は国民の貯えたお金を活用し、無利子国債を出して、相続税に報いる道を展くべきだ、幸い、日本一国のみが円高で輸出が狭められているから。そして更に「政府紙幣」と呼ぶ返済不要のお金を、政府が発行することを国会が認め実行すべきだ。
せめて、「悪性インフレにならない程度」まで発行して、国土の整備発展の為に寄与する決意を示す時である。それが円高をくい止め、失業者を作らない日本独自の政策である。
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