_塚本三郎元民社党委員長小論集_ _当会支部最高顧問、塚本先生世評_
世界経済は、行き詰っている  平成二十三年十二月上旬     塚本三郎

アメリカの停滞 

アメリカは、政治、経済、そして軍事を含めて、地上に於ける各国のリーダーとして、戦後の世界を指導し、かつ自由と民主政治の守護神を自負して来た。そのことは、自他共に認められて来た。そのアメリカが、経済的に勢いを減じつつある。

 もちろん、今日なお、必死の努力を重ね、指導的地位維持のため、涙ぐましい施策を重ねつつあり、特に経済的に困窮し、「通貨の大量発行」を余儀なくされている。

隣国のメキシコをはじめとする、途上国の人民は、自由で、憧れの国、アメリカを目指して、不法移住が増大し止まることがない。このことが、更に大きな失業問題、住宅問題と重なり、失業率の増大が、更に経済力の低下を招いている。

 その為、基軸通貨のドルは、ここ三年間で五十%も下落しても未だ止まらない。

 この国の国力の低下は、世界の基軸通貨であることから、他の自由主義国家のみならず、共産圏でさえも、その悪影響は避け難くなりつつある。

 アメリカの国力の低下は、即、自分の国への悪影響となることは承知しつつも、世界各国が、自分のことのみを考えている。

 その上、かつてのアメリカの威信と国力を、未だに頼りにしていて、アメリカを助け、協力しようとはしないのが世界の実状である。何れも勝手な国々とみるべきか。

 アメリカはそれでもなお、世界の警察軍として、莫大な軍事費を用意し苦悩している。そのために経済力に比べて、軍事費が重荷となりつつあるのであろう。

 科学技術、及び教育機関の実力は未だ、軍事力と共に、世界の指導国としての地位は衰えていない。また衰えることは、文明国の悲劇と云うべきだ。アメリカが、世界各国の発展と比べて相対的に、その進歩の速度が遅い点は否定出来ない。

それでも世界の頂点に立つアメリカには、何れの国も同情を与えない。逆に「追い付け、追い越せ」との意気込みである。

中国のバブル崩壊は?

 中国はアメリカに次ぐ世界第二位を自負しており、昨今は他国の経済力と比較して断トツの成長を続けつつある。昨年は、わが日本にも追い付き、素早く追い越し、更に引き離したと、内外に誇示している。しかし、その事実の中身が問題である。

つまり、中国経済は、自国の経済力そのものではない。中国の経済は、世界各国、先進工業国の「生産工場」としての成長である。

 中国は、場所を貸し、安い労働力を提供して、世界先進国の生産の協力地と、労働力提供の基地であるに過ぎない。勿論、自国内に在る生産工場であり、自国の労働者である利点を、無為に見過ごしている訳ではない。設備も技術も、貸し付けた場所代以上のメリットを含んで、中国の国力へと転化していることは見事である。

 だが、自国内の工場と雖も、広大な国土の中でも、外国人として工場進出の場所は、交通と通信及び輸送に便利な、沿岸近くに限られている。

従って、その急発展する沿海地と、不便な奥地とでは、発展の速度の差が著しい。そのことは、労働賃金と、生活程度に、大きな格差が生まれている。

これ等の格差は、同じ国民として堪え難い不満を増大し、暴動は常態と化している。

政府はこの暴動が、やがて反政府へと拡大することを恐れ、必死で抑え込みつつある。

中国にとっては膨大な人口を稼動させる為の、有効な仕事は土木工事が中心である。

中国もアメリカ及びEUとの貿易の、最大の相手国で、大きな痛手を受けている。

その対策として、失業者救済を目的に、巨大な土木工事を重ね、広大な国土を開発する為の高速道路の建設促進は、眼を見張る程のスピードで、而も延長距離は驚く程である。

勿論、土地所有権を持たない中国人民に対して、用地の取得が容易に出来る。他面、土地を追われた人民の住居を確保しなければならない。従って、高層住宅の建築もまた次々と進められている。この大工事に対する政府の膨大な支出、即ち通貨の増大は、そのまま物価高騰へとハネ返っている。

住宅取得の資金を借り入れた人民は、値上がりを予測して、何戸も買い入れている。

中国の住宅事情は、日本のように公営住宅への低家賃政策ではない。

住宅資金の貸付けによる、個人住宅の取得制度である。各銀行は競って貸付けを促す。その資金で、野心的な人民は、自己の住宅以外に、何戸も買い入れている。

年々値上がりが続くから。住宅そのものが投資の最大物件となっている。

不動産バブルは、他の食品などへと波及して、国中が大インフレとなり、政局不安を招きつつある。政府は止む無く、バブル抑制の為、貸付金利の上昇政策に乗り出した。

政府のバブル抑制の期待は、経済崩壊の危機を誘発する。中国の経済成長の鈍化が、巨大な矛盾を抱えながらの成長で、間もなく大崩壊が訪れるとの予言さえ否定しない。

欧州の爛熟とあせり

かつての欧州は、世界文化の基地であり、二十世紀はヨーロッパの時代であると、イギリス、ドイツ、フランスが栄華を誇った。

爛熟期を過ぎた欧州各国は、アジアと互角の成長をすべく、一つの共同体を成立させた。そのことは、政治的に対立を避け、更に経済統合の第一歩を堂々と踏み出すことが出来た。それは見事に成功しつつあると見る。だが物事には裏が伴う。政治が一国として独立しているのに、経済の血脈とも言われる「通貨の統合」が、うまく進むことが出来るだろうか。

ドイツとフランスの歴史的対立を乗り越えてのユーロの協力は、二十世紀の戦乱を知る我々にとっては、不思議にさえ思える。

その上、防衛力の一部を北太平洋軍として、アメリカを巻き込んでの体制を確立していることは見事の一語に尽きる。

欧州各国が、第二次世界大戦の悲劇を反省し、再び戦争の誘発を防ぐことを深く考え、EU(欧州連合)を結成した。

更に欧州各国が、経済の協力と発展を目指して、ユーロ(欧州通貨制度)を統一した(一九九九年)。その便利さから、北欧や南欧も次々と加わって、十七カ国の共通の通貨ユーロを利用することになっている。

十七カ国が国家としては、独立主権を保持しつつ、欧州の共通事項の処理に止まらず、経済の血脈とも云うべき、通貨の統一を行なったことは、大きな進展である。

しかし、それには、各国ごとに長い歴史が在る。まして各国には、経済的に活動の源流が異なっている。細かい問題は解消されても、経済は政治と一体的に動いているから、お互いに、余程の忍耐と協力が必要であろう。政治統合なき通貨の統合は難しい。

近々、ギリシャが、デフォルト(崩壊)の危機に迫られている。内政の放漫経営が原因と非難されている。併し、共同体各国は仲間として、参加各国が、ギリシャの発行している国債を買い受け、それの返済が無理と判断して、ギリシャ国債の五十%を切り捨てることにした。加盟国の大幅な協力である。

更に共同体としては、参加国支援の為の基金を積み増しすることも決定した(欧州安定化基金・EFSF)。

本来ならば、ギリシャは自国の経済立て直しの為に、自国の通貨の増発によって、貧窮生活に堪え、危機を、自らの手で切り抜けることが至当である。それが出来ないのは、ユーロという、共通の通貨で、ギリシャ一国では発行の権利が無いから。

行政権を持つ独立国に、通貨発行の権利が無いことは、経済的には便利であったことが、逆に独立国としての大権を縛ることになった。加えて、イタリアも同様に、経済の困窮から、国債の増発が続き、崩壊の危険が警告されている。

日本の国会解散と政界再編

 欧州が、政治、経済、文化の「爛熟期」と評したのは、追走する(BRICs)ブラジル、ロシア、インド、中国の、速度に比して、やや遅れていると言うべき表現である。

アメリカ、中国、欧州、共に経済不況の黒雲は去る気配が無い。併し幸い、今日の国際情勢は、戦乱の動静が察せられないことは、せめてもの幸いである。

嘗ての世界の歴史は、国内政局打開の一つの手段として、戦争と云う大消耗戦を始めることによって、国難打開の危険を冒した。今日その危険は殆んどない。

独裁政権の共産国に対してのみ少々心配が残るから、厳重な警戒を怠るべきではない。

世界中、右を見ても、左を向いても、明るい希望が見えないと心配されている。

日本自身も、この暗夜に比べ、その暗い仲間の一つの位置を占めている。

本来、日本自身が、今日現在こそ、大和魂、武士道の光を、経済の舞台で、輝かせるべき能力を保持していると自負すべきである。

少なくとも、まずアジアに於ける、「灯台としての光」を発光すべき使命がある。

日本は昭和十六年(一九四一年)大東亜戦争以来、英・米両国を中心とする全世界を相手として、約四年間アジア解放の戦いを続けた。

敗れたりとは云え、アセアン各国を、日本の手で英・米・仏・等の植民地から独立国へと解放したことを誇りに思っている。

その後、敵として戦った米国と同盟を組んで、経済発展を遂げ、米国と肩を並べる経済大国に成長出来たと自負している。

その魂と責任感は、今回の東日本大震災で、わが自衛隊の武士道、そして住民の大和魂が、遺憾なく発揮された。

野田政権は、鳩山、菅両政権に比べて、暗愚ではない。しかし、決断力と執権をもって、実行する力が欠乏している。

日本政界には、与野党共に、志ある武士が未だ沢山居る。各党の志ある議員は、自らの出番を待っている。その人達の出口を塞いでいるのは、野田総理自身の迷いにある。

希望は唯一つ。一刻も速やかに衆議院を解散して、政局を国民の選択に委ねるべきだ。

局面を発展させるには、政界の再編成が第一番だと、与野党国会議員でさえ、そう叫んでいる。その突破口は、衆議院の解散総選挙である。日本の夜明けは、そう遠くない。



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