|
写真論TOP |
|
|
|
困った依頼 |
静岡県川根は、上質なお茶の産地。大井川鉄道で北上し山間部
に位置する。
その川根で茶摘の風景を撮る依頼を受けた。依頼者は、当日行
けないので「富士山を背景にお願いします」とリクエストをして
きたが、依頼を受けるまで川根が何処にあるのか知らなかった私
には「果たして富士が見える場所なのだろうか?」と気にはなっ
た。
静岡=お茶、茶畑の向こうに富士山・・・というのが、全国からみ
た静岡のイメージではあるのだが、実際にその風景があるのは、
多分、牧の原付近の話であり、同じ太平洋に面した茶畑でも掛川
付近では、そのような景色ではない。
「静岡=茶摘に富士」という先入観が多くの人にある証が、この
依頼にみられる。
さて、川根へ行くには…。その前に当然、地図上で場所を調べ
るが、その時点で、富士山が見えない位置にあることが判明。
しかし、依然として依頼主の頭の中には「茶摘&富士」であるか
ら、行く前に「不可能」といっても納得しない。なまじ、東京か
ら富士が見えるので更に納得しない。したがって、現地の風景を
数カット撮って、富士が見える地形ではないことを理解してもら
う以外にないのである。
本心、馬鹿げたことと思うのだが、現地に行けない依頼主の言
っていることを否定し、その否定の根拠を立証するためには、必
要な作業となるわけだ。信じ込んでしまっていることを修整する
のも大変な作業である。
この出来事には、写真は撮る前に意図があって作画することが
ある、そして人は先入観にとらわれ易い、特に静岡=茶畑と富士
・・・という絵葉書や観光写真が与えた影響の大きさ、また、そ
れら先入観を払拭することに他からの労力を必要とする等の要素
を読み取ることができる。