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作風の転機 |
広告一辺倒で写真を撮っていた頃は、広告もしくは写真館以外の写真に
よる収入手段がイメージし難かったが、雑誌など、よくよく考えてみれば
身近に写真の仕事がある事に気付いた。
もっとも、「名古屋」という地方都市が活動拠点だったことからタウン
誌以外の出版物があまり無い地域性があって尚更、出版物の仕事が如何な
るものか実感が湧かなかった。
丁度バブル景気に差し掛かる頃(この時点では、世の誰もが好景気とい
う実感は無かったが)名古屋においても発行部数、公称十万部を超えるタ
ウン誌の登場や情報誌の読み物など、写真のクォリティを上げようとする
動きが起こり、予算もつくようになってきた。
広告で培った撮影技術は、雑誌の編集者にとって、新鮮かつハイクォリ
ティな印象を与え、私自身、畑を出版業界に置き換えたことで新たな展開
と出会うこととなる。
ある情報誌で「看護婦ドキュメント」という記事を作ったが、交渉で一
日、婦長さんに付いて頂きあらゆる医療現場での看護婦さんたちの働き振
りを撮らせていただいた。
その中で救急病棟での事であるが、救急車が入る連絡があり、私も救急
病棟へ駆けつけた。その時、看護婦さんたちの厳しい表情をとらえようと
考えていたのだが、全員、まったく普通の表情である。急患が搬送される
ときも笑いはしないものの表情は変わらず。当てが外れた感じで婦長さん
に尋ねたところ「いつもの事ですよ」と言われた。よくよく考えれば、緊
張せず、普通でいられるから患者も安心できる。
今までテレビなどのメディアを通じ場合にはドラマの影響を受けて勝手
に現場のイメージを作っていたことに気付いた。
同時に例えば、役者の看護婦より本物の看護婦の方が、はるかに魅力が
ある、ということであった。この魅力とはリアリティということである。
写真を撮っている私に近づいてきた、産後間もないパジャマ姿のお母さん
が、保育室にいる我が子を指差しながら、「あの子です」と言ってくる。
現場とは筋書きが無くそれが魅力である。それ以来、私の作風が変わった。