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 職業カメラマンを経験して(続き)
モデル撮影で違和感があったのは、子供だ。ホリゾントの前に
立ち、ポーズをとる。
この時代、自然なポーズではなく決まりポーズが主流であった。
例えば、男児が、片手を腰に当て片手は人差し指を伸ばし親指を
立て、顎の付近に持っていき「ニッ」と笑う。美空ひばりが子役
の頃、「出来過ぎで気味が悪い」と批評されたというが、これを
見たときに感じたものか・・・と思った。
しかし、これも美人と同じで三日もすれば慣れてしまった。


しかし今、このポーズをとらせることは、有り得ないだろう。

時を経て、私もアシスタントからカメラマンとして仕事をさせ
ていただくようになったが、当然、職業カメラマンは、発注者の
意向に沿った写真を撮らねばならない。

例えるなら、「安い商品を高く見せる」等。かつて「ピラミッド
パワー」が話題になった頃、日産のキャンペーンで来店者へプラ
スチック製のピラミッドをプレゼントする―という新聞広告をみ
て、早速、近くに日産へ行った。写真では、アクリルかクリスタ
ルに見えたピラミッドであったが、実際は、卵パック素材のよう
なもので作った「シロモノ」であった。同行した先輩が、「これ
を撮ったやつは、上手いな〜」と言った。“同業ならでは”の感
心事である。後にスーパーから百貨店の仕事をするようになる。
スーパー時代から思えば撮影が楽だ。品物が高いだけに撮影のた
めに衣料にかけるアイロンの時間が短い。また、バッグやブーツ
もそのまま置けば良い。スーパーの商品は、新聞紙を丸めて詰め
たりして整形するのが大変であった。


 ある、高級家具メーカーのカタログ写真を撮った。クライアン
トである家具メーカー広告担当者は、「“上手に撮ってください”
とは言いません。そのままを撮ってください。そのまま撮っても
我社の製品は、見劣りしません」と述べた。確かに素晴らしい家
具である。


 我々の写す行為は、作り手の意図を反映させたものを写すのが
仕事である。職業カメラマンの経験は、「写真」の意味を考えさせ
られるようになる。